会員インタビュー

脳神経外科医
佐野 公俊さん

時はまさに「今でしょ」

脳動脈瘤の手術件数が、2000、01年と連続してギネスブックに登録され、現在は3850例の記録を持つ脳神経外科医は、どこまでも謙虚で柔和な笑顔が印象に残るお医者さんだった。

「医学と言っても、脳神経外科の手術しかできないが、個人にしかできない手術はアートであり、それを普遍化するのがサイエンスである。その道を極め、後世に伝えていくために、もう少し頑張らねば、と思う」

あと数年後に古希を迎えるが、東京・神田錦町で過ごした中学時代の友人に誘われて、江戸城天守を再建する会に入会した。

「皇居東御苑、千鳥が淵で遊んだ子供時代は、富士見櫓が天守閣と思っていましたが、昭和51年に愛知県の藤田保健衛生大学に勤務することになり、名古屋城を、また学会が開かれた松本、熊本、姫路などを訪れて、天下の江戸城天守閣が失われているのを寂しく思うようになりました」

「日本が誇るトップドクター」としての名声があがると、世界各国からの講演依頼が多くなり、訪れた地方の有名な城、寺など由緒ある建造物に案内してもらい、歴史の重さに深く感動したそうです。

神奈川(総合新川橋病院・川崎市)愛知、静岡の病院を毎週、車で回って、手術、外来診察など多忙の日々を送る。類稀な手先の器用さを発揮して、患部周辺には一切出血がない「無血手術」を続ける。これを可能にしたのは、自分の手で作った50種類近い手術器具だ。

神田の時計屋の息子で、時計修理に使うピンセットなどが手に届くところにあり、3歳くらいから、刃物類を使い慣れていた。無意識のうちに(手術で)指を使う訓練になっていたという。各病院には、自ら発案、デザインした器具を持ち歩いている。

「友人から、1枚の江戸城天守建地割図から図面が復元され、高さ約60mの大天守の再建が可能との話を聞きました。一方、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まり、伊勢神宮の式年遷宮も終わり、宮大工の方々も築城のために集まれる状況にあります。時はまさに「今でしょ」と感じています」

天守再建を夢見る脳外科医は今、「学生のみならず、時代を担う若き脳神経外科医の皆さんには、私の残した技術を引き継ぎ『世界に一きれいな無血手術を行う気概と技術』を、守り続けていってくれることを願ってやまない」と、慈父のような優しい目を輝かせている。

取材・文 土屋 繁
(当会理事)